年金分割とは
夫が婚姻期間中に会社員・公務員などで厚生年金・共済年金に加入していた場合に、その婚姻期間中の年金の権利の一部を譲ってもらい、ご自分(妻)が将来受け取ることになる年金の額を上積みしてもらえるようにしてもらうのが年金分割です。
その婚姻期間中の夫の年金の権利の一部を譲ってもらえますが最大で50%までです。例えば夫50%妻50%、夫70%妻30%などのように分割してもらえます。
しかし、妻が夫に請求する場合、妻の割合は60%とか70%にはできません。最大でも50%です。厚生年金等の負担者は夫であり夫に最低でも半分の権利は守ってあげなければかわいそうだからです。
上記の年金分割の説明は簡単な言葉で説明しようとしたのですが、正確な年金分割の定義は「厚生年金保険等の被用者年金に係る報酬比例部分の年金額の算定の基礎となる標準報酬等につき、夫婦であった者の合意又は裁判により分割割合を定め、その定めに基づいて、夫婦であった者の一方の請求により、社会保険庁長官等が、標準報酬等の改訂又は決定をおこなうこと」です(青林書院「離婚調停・離婚訴訟」より引用)。
この定義は年金をある程度知っている方には理解できると思いますが、あまり知らない方には難しいと思います。年金分割は複雑な制度ですのでできる限り簡単な言葉でわかりやすく説明したいと思います。
現実の社会では妻は家庭で家事・育児をし、専業主婦・パートで国民年金しか加入していない方が多いと思います。また離婚後、正社員や公務員となり厚生年金や共済年金に加入することは、新卒優遇の雇用体制では、希であると思われます。
そこで、年金分割の制度を制定し、後に妻が受け取る年金額の増額を可能としたのです。
夫が自営業者だった場合
夫が婚姻期間中自営業者であった場合、婚姻期間中の夫は厚生年金や共済年金に加入していませんから妻は離婚の際に年金分割を請求することはできません。
自営業者は国民年金に加入していますが、国民年金は年金分割の対象とはなっていないからです。
国民年金は職業に関係なく加入しなければなりませんが、厚生年金・共済年金の加入は職業が会社員・公務員などに限られます。会社員は国民年金と厚生年金の二つに加入し、公務員は共済年金と国民年金に加入していますが、自営業者は国民年金にしか加入できません。
下図の上段が年金分割の対象です。
夫の職業 |
|
自営業 |
会社員 |
公務員 |
上段
(年金分割の対象、赤の部分) |
無し✖ |
厚生年金 |
共済年金 |
下段 |
国民年金
(第1号被保険者) |
国民年金
(第2号被保険者) |
国民年金
(第2号被保険者) |
自営業者の夫と離婚する際は年金分割に代わるものとして、例えば「月に3万円ずつ支払ってもらう」というように定期金給付契約(財産分与の一種)を結ぶのが良いと思います。
妻が厚生年金・共済年金に加入していた場合
妻が厚生年金・共済年金に加入していた場合であっても、妻が夫に年金分割の請求をすることはできます。
しかし、妻自身も厚生年金や共済年金に加入しており、将来国民年金よりも多い額の支給等を受けることができるので、年金分割請求できる範囲は、専業主婦の場合よりも低くなります。
さらに妻の収入が夫の収入より多い場合に年金分割をすると逆に妻が損をすることになります。
夫は厚生年金(共済年金)加入者 妻は専業主婦 |
|
夫 |
妻 |
婚姻期間中の標準報酬等(※1)合計 |
1億円 |
0円 |
夫と妻の合計額 |
1億円 |
年金分割の対象⇒赤の部分 |
5千万円 |
5千万円 |
分割できる範囲 |
夫の権利 |
1円から5千万円までの範囲で、話合いにより決める(※2) |
(※1)標準報酬等は会社員の厚生年金や公務員の共済年金の支払いを決める基準額であり、賞与も含めた月平均の給料です。
(※2)平成20年4月以降夫が厚生年金(共済年金)加入者で妻が専業主婦であった期間は妻は話し合いをせずに5千万円を請求できる(3号分割)
夫も妻も厚生年金(共済年金)加入者で夫の給料が多い場合⇒妻が請求 |
|
夫 |
妻 |
婚姻期間中の標準報酬等(※)合計 |
8千万円 |
2千万円 |
夫と妻の合計額 |
1億円 |
年金分割の対象⇒赤の部分 |
5千万円 |
3千万円 |
2千万円 |
分割できる範囲 |
夫の権利 |
2千万円から5千万円までの範囲で、話合いにより決める |
妻の権利 |
※標準報酬等は会社員の厚生年金や公務員の共済年金の支払いを決める基準額であり、賞与も含めた月平均の給料です。
妻の職業・身分 |
|
自営業 |
会社員 |
公務員 |
専業主婦・年収130万円未満のパート等 |
上段 |
無し✖ |
厚生年金 |
共済年金 |
無し✖ |
下段 |
国民年金
(第1号被保険者) |
国民年金
(第2号被保険者) |
国民年金
(第2号被保険者) |
国民年金
(第3号被保険者) |
2つの制度がある年金分割
年金分割には合意分割と3号分割があります。
合意分割は請求者(妻)が損をしない範囲で(最大50%)、年金の分割をすることであり、基本的には夫婦の話合いで決めます。
これに対して、3号分割は夫の加入している厚生年金・共済年金の被扶養者(専業主婦又は年収130万円未満のパート主婦)が50%の年金分割を主張することです。厚生年金等の被扶養者は国民年金の3号被保険者なので3号分割と呼ばれています。
3号分割は平成20年4月以降に夫の年金の被扶養者であった期間だけが認められます。
両者の違いは、合意分割は夫婦の合意で分割割合が決められますが、3号分割は夫婦の話し合いは不要で分割割合も妻に最も有利な50対50と決められています。
3号分割は婚姻期間中、国民年金しか加入していなかった専業主婦やパートの主婦を保護するための特別制度のため、合意分割よりも妻が優遇されているのです。
年金分割の手続き
社会保険事務所で行っています。
3号分割の場合は離婚後社会保険事務所に改訂請求すればよろしいです。
これに対して、合意分割の場合は夫の同意がなければなりません。公正証書を作成するとこに公証人の先生に合意分割の書類を作成してもらえばよいでしょう。
従って合意分割の場合は公証人役場で年金分割合意書を作成してもらい、その後社会保険事務所に伺い改訂請求をすることになります。
年金分割して離婚した後の重要事項
年金分割して離婚した後ほっとしていてはいけません。
結婚前、婚姻期間、結婚後で通算最低25年以上国民年金(厚生年金・共済年金)を支払っていないと年金分割による上積みの恩恵ばかりか、年金自体をもらえなくなります。
若くして結婚して夫の勤める会社が年金の手続きをやっていただいて、年金のことがよくわかっていないと思う方は要注意です。離婚する際も会社が妻を夫の被扶養者から外す手続きをしますが、その際、専業主婦は国民年金の3号被保険者から1号保険者にかわります。今までは妻の国民年金は夫と会社が払っていたのが、今度は自ら国民年金を支払わなければならなくなります
手続きに間違いがないか、ご自分の年金の加入状態はどのようになっているか、離婚直後にお住まいの市役所の年金課に赴き確認しておいたほうがいいと思います。例えば離婚して1号保険者になったはずなのになぜか3号保険者(夫の被扶養者)のままであり、ご自宅に国民年金の納付書が届かず時効期間(2年)が経過してしまったため、その期間の年金を支払うことができなくなってしまう場合があるからです。
老後には何があるかわからない
年金分割は手続きが面倒であり、将来思ったほど支給額が増えるものではありませんので、離婚の際に手続きをされていない方も多いかと思います。
しかし、老後は長いですし、病気にかかったりしやすくなりますので、後で後悔しないためにも離婚の際には、年金分割の手続きをされていたほうがよろしいかと思います。