財産分与
離婚に際して、配偶者の一方から他方に財産上の給付をすることを財産分与といいます。
例えば婚姻期間中に夫が勤めている会社から給料が振込まれる夫名義の預金について、妻が何割かの持分を主張できます。また夫名義の持ち家や土地についても妻が何割かの持分を主張できます。
離婚後2年で時効が成立してしまい、以後相手から時効を主張されてしまうと請求できなくなります。もっとも、相手が時効を主張しない限りは請求できるので、だめもとで一応請求してみることも可能です。
専業主婦にも財産分与請求権はあります
夫は外で働いており、自分は働いていなかったけど財産分与は認められるのか半信半疑になる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、法律上専業主婦であっても財産分与請求権が認められています(民法768条)。家事・育児なども家庭への貢献とされているからです。
ただし、専業主婦が家事・育児をやらなかったとか、離婚の原因を作ってしまったなどの事情があれば、その程度によりますが財産分与請求が減額されるか、認められない場合があります。
また財産分与の分配割合は50対50が通説的立場ですが、外で働いて収入を得ていいる方が貢献度が高いことを根拠として夫70%、専業主婦30%とする見解もあります。
財産分与の根拠
少々理屈っぽいお話になりますが離婚の際に夫婦で財産分与の話し合いをされる時に相手を説得するのに役立つと思い述べさせていただきます。
財産分与の根拠 |
精算的財産分与(メイン) |
婚姻後に形成した財産について経済的貢献度に応じて分配 |
扶養的財産分与 |
離婚後、生活できる収入が十分でない者に対しての配慮による分配 |
慰謝料的財産分与 |
離婚によって生じる精神的苦痛を賠償するための財産分配 |
財産分与請求権の根拠は上表のように精算的財産分与・扶養的財産分与・慰謝料的財産分与の3つがあります。
☆精算的財産分与
精算的財産分与が第一の根拠となりますが、専業主婦やパート主婦であっても家事や育児を労働としてみて経済的に貢献していると扱い、精算的財産分与を認めるのが通説的見解です。
☆扶養的財産分与
専業主婦やパート主婦が離婚して自力で十分な収入を得るのは大変なことだと思います。子育てをしたり、高齢であったり、病気で働けないなどの事情のある方もいます。そこで元夫が離婚後の元妻の生活を考慮させるために認められたのが扶養的財産分与です。
☆慰謝料的財産分与
精神的苦痛があったからといって財産分与請求権は本来必ずしも結びつくものではありません。しかし例えば浮気の疑いはあるのだけど証拠によって証明できず慰謝料請求ができない場合などに救済的に慰謝料的財産分与が認められています。
財産分与の対象となるもの
☆土地・建物などの不動産
☆自動車・テレビなどの動産
☆預金
☆株券・社債
☆生命保険
☆学資保険
☆住宅ローンなどの債務
☆退職金
夫が会社や役所に在職中に離婚することになっても将来夫が受け取ることになる退職金の一部を財産分与の対象とすることができます。将来受け取る退職金を対象にできるのか不思議に思われるかもしれませんが、退職金は労働の事後的な対価とされているからです。言い方を代えると毎月の給料の一部が後の退職金のために積み立てられていると考えるからです。
財産分与の対象とならない場合
☆認められるもの
名義の如何を問わず、婚姻後夫婦が協力して取得した財産は財産分与の対象となります。
例えば夫の給料が振り込まれている夫名義の預金や、婚姻期間中の収入で購入した夫名義の土地や建物などは財産分与の対象となります。
☆認められないもの
婚姻前から有していた財産
婚姻後に取得した財産であっても親族などから贈与を受けたり、相続した財産
財産分与の方法
金銭的給付が基本です。
しかし自動車やテレビなどの動産を換金して分配するのは、換金額が下がるので得策ではありません。また土地や建物を売ってお金にして分配するのは相場より高く売れれば得ですが、夫婦のうち一方が現在の持ち家に住みたいのであれば換金することははできません。
そこで動産はどちらかの所有物にするか決め、土地建物もどちらかの所有として(移転登記が必要な場合もあります。)、それで不公平が生じる場合は金銭的給付を増減して調整するのが良いでしょう。
夫名義のの居住用建物・底地に妻が離婚後も生活する場合
離婚の際に妻が現在の居住用建物に残り、夫が出ていくとした場合の財産分与の方法はいろいろあります。
☆第一の方法
建物とその底地の名義を妻の名義に変える方法
第三者への転売の危険がなく妻にとって一番安心ですが、その代償として多額の金銭を財産分与として妻が夫に支払わなければならないと思われます。
☆第二の方法
建物とその底地の名義は夫のままにしておくが夫と妻が賃貸借契約を結び、妻が賃借人となり住み続ける方法
多額の金銭を支払わなくてもいいですが妻が毎月賃借料を払わなければなりません。
なお、賃貸借契約は登記をできるので、登記をしておけば夫が建物・底地を第三者に売ってしまえばその第三者に賃借人であることを対抗して住み続けることができます。
☆第三の方法
建物とその底地の名義は夫のままにしておくが夫と妻が使用貸借契約を結び、妻が借主となり住み続ける方法
多額の金銭を支払わなくてもいいですし、妻は賃借料を払わず無償で生活できます。
しかし使用貸借は登記をすることはできませんので夫が第三者に建物・土地を売却したあとにその第三者から立ち退きを求められたら原則出ていかなければならなくなります。
この方法を選択するならば離婚の際に「無断で第三者に転売をした場合は元夫は元妻に損害賠償をしなければならない。違約金として○○円を支払う。」等の文言の入った契約書を作成しておくと良いと思います。
財産分与の内容の書面化
離婚の際に金銭を一括して払うのであれば特に書面化をする必要性はあまりありませんが、内容が複雑なものなどは後で争いにならないよう、たとえ争いになっても証拠にするためにも離婚協議書を作成し書面化しておいたほうが良いと思われます。
特に妻が離婚後も持ち家に住み続けるような場合は賃貸借契約や使用貸借契約などを書面に明記し、賃借料、損害賠償額などを明記し、後に争いが生じても不利益を被らないようにしておくと良いと思います。不動産については登記をすることにより第三者にもその権利を対抗することができます。
また金銭的給付を離婚後に分割払いにするとかする場合は公正証書化しておくのが、不払いがあるとすぐに強制執行ができるので良いと思います。
しかし、夫婦の協議で合意が得られず、争いになり、書面を作成できない場合は調停(訴訟)を申立てて決着を付けなくならなくなります。